「慈悲」という、光の処方箋
暗闇でロープを「ヘビだ!」と見間違え、恐怖に震えているとき。「怖がるな」と自分に言い聞かせても、心はなかなか言うことを聞いてくれません。なぜなら、あなたの心にはすでに「恐ろしいヘビ」という強力な影(ニミッタ)がこびりついているからです。
この「影」を乗りこなすために、仏教が勧める最も強力な方法が**「慈悲(じひ)の瞑想」**です。
これは、心の中に「ヘビ」とは正反対の、**「温かく、柔らかな光」**を意図的に作り出す練習です。
やり方はとてもシンプルです。静かに座り、次のような言葉を心の中で、一言ずつゆっくりと唱えます。
私が幸せでありますように
私の悩み苦しみがなくなりますように
私の願いが叶えられますように
私が安らかでありますように
私たちの心は、同時に二つの相反する「影(ニミッタ)」を映し出すことができません。「憎しみ」や「恐れ」でいっぱいの心に、無理やり「慈しみ」を詰め込むのではなく、まずは自分自身へ向けて、優しい言葉の響きを**「上書き」**していくのです。乾いた土に水が染み込むように、何度も、何度も。
言葉が心に馴染んでくると、不思議なことが起こります。あんなに怖かった「ヘビの影」が、光に照らされた霧のように、その輪郭を失っていくのです。
それは、自分を縛り付けていた「見間違い」から自由になるための、もっとも慈しみ深い方法なのです。